株式会社綿引農園
2022/10/17 掲載
株式会社綿引農園
地域:那珂市
支援内容:法人化(2021年4月設立)
主品目:トマト、水稲、ほか
経営面積:トマト(60a)、水稲(15ha)
個人事業から法人化への決意、専門家派遣事業の活用
親子二代で営む株式会社綿引農園は、代表取締役の綿引太一さんがハウスでのトマト栽培を担当、父であり取締役の桂太さんが水稲とアスパラガス、ナス、キュウリ、カボチャなどの野菜の栽培を担当しています。経理や労務管理は主に母であるみどりさんが担当しています。綿引農園のトマトは長期多段どり栽培と抑制栽培を組み合わせることで通年で販売しています。那珂市近郊の直売所のほか、つくば市内のスーパーでは、「あとひきトマト」のブランド名で販売し、甘味と酸味のバランスが絶妙で、ゼリーが多くてジューシーだと好評を得ています。 太一さんは茨城県立農業大学校在学中に、鉾田市のトマト専作の農業法人である、現在の株式会社伊藤農園.Fで研修を受けました。トマト栽培の魅力に加え、農業への想いや後進育成の重要性など、多くの学びを得たといいます。「伊藤さんは、僕も含め、たくさんの研修生の師匠として僕らの独立をサポートしてくれました。しかし、今は農業をやりたいという人が減り、僕より下の後輩が全然入ってこない。そんな中にあっても農業を繋いでいくために、農業に関わる人を増やしていきたいと思いました。」と話す太一さんは、地域の農業を牽引していく支柱になる、という想いで、農業経営に積極的に取り組んでいます。2018年にはいばらき農業アカデミーのリーダー育成講座を受講。そこで多くの刺激を受け、個人事業から法人化へのステップアップを考えるようになりました。折しも、那珂市内の農家仲間では、法人化が話題にはなるものの、なかなか踏み出せないという声が多く、「まずは自分が先陣を切ってやってみよう!」と決意したそうです。水戸地域農業改良普及センターを通して農業参入等支援センターの支援を受けられることを知り、2020年から早速専門家派遣事業を活用しました。
漠然と描いていた将来像を明確にし、家族間で共有、結束
法人化を見据え、中小企業診断士のアドバイスのもと初めに行ったのは、SWOT分析(※)を通じて家族で話し合い、綿引農園全体の現状を共有することでした。これにより、強みや弱みを確認しながら、それまで漠然と描いていた将来のビジョンを明確にし、法人全体としての理念や事業方針を固めることができました。「綿引農園が目指すのは、“人が集まる農業”です。そのためにやるべきことや計画を整理できました。何より一番良かったのは、家族で話し合うきっかけができたことです。家族だけだとなかなか冷静に話せなかったのですが、第三者の目線が入ることで、将来のビジョンを共有することができました。家族であらためて話してみると、耕作放棄地への問題意識や後進担い手の育成についてなど、父も同じ意見を持っていることが分かったのも良かったですね。」と、笑顔を浮かべる太一さん。その後、社会保険労務士から労務管理や社会保険等についての具体的な内容を学び、更に会社設立の手続きについて司法書士のサポートも受け、初回の専門家派遣から約1年後の2021年4月に、株式会社綿引農園を設立しました。
法人化後、地域の農業を支える担い手として
「最初はぼやぼやと雲を掴むような感じでしたが、周りのサポートと専門家派遣の支援を受けて色々なことがはっきりと固まりスムーズに進めることができました。」と話す太一さん。「法人化した最大の理由は、これから自分たちの後に続く人たちにちゃんとしたところを見せたかったからです。そのためにはまず、自分たちの労働環境からしっかり整備しないといけないですね」と、法人設立後も社労士の協力を得ながら労務管理の重要性を学び、法定三帳簿(「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」のこと)を作成するなど経営者としてもまい進しています。労働環境の改善を通じて、今後さらに雇用を増やす考えです。また、具体的な経営目標については「今後は規模拡大だけでなく、単収の向上にも力を入れたいと考えています。雇用を確保するためには、収益も上げていかないといけませんからね。だいたい2割〜3割ぐらいは上げたい。そのためには、年間を通して安定した収量と質を確保できるように、ロスを少なく、1本の樹からより多く採れるようにしたいです。」と話します。さらに太一さんは父、桂太さんの水稲作業の省力化のため、農業用ドローンの操縦士資格も取得しました。これまで親子別々の経営でしたが、経営を統一することで協業と継承にも繋がっています。 そして地域では、太一さんに続き法人化を進める仲間も増えました。正に地域の農業を支える柱となった株式会社綿引農園。地域の担い手として活躍する太一さんの元には多くの笑顔が集います。
※SWOT分析
「強み(Strength)」、「弱み(Weakness)」、「機会(Opportunity)」、「脅威(Threat)」の頭文字SWOTから名付けられた、事業分析のツールのことです。 内部環境(自社がもつ資産やブランド力、品質など)のプラス要因の「強み」とマイナス要因の「弱み」と、外部環境(自社を取り巻く、市場や競合、法律など)のプラス要因の「機会」とマイナス要因の「脅威」に分けて整理することで、自社の事業の状況を知ることができます。